妊娠・出産は病気ではなく、女性のからだの自然な営みです。かといって、まったくこれまで通りでよいかというと、そうでもありません。アクティブに、 しかし自分のからだをいたわる心づかいを忘れずに、 自分らしい妊娠生活を送れるようにしましょう。
“ からだをいたわる” とは、動かないことではなく、 たとえば家事の途中でも疲れたらがまんしないで休 むなど、自分で体調をコントロールすることです。 一方、筋肉は使わないと弱って、お産のときの子宮収縮が不十分になり産む力が出ません。今後の育児のためにも、妊娠中から散歩などで体調を整えることも必要です。すべての生活シーンを「慣れている ことを8割程度に」を目安にペースダウンすればいいでしょう。スポーツが好きな人や仕事をもつ女性 も、これを目安にすれば十分つづけられるでしょう。
自分自身のからだをよく知り、からだの声に耳をかたむけ、自分の健康管理は自分でするのだという意識をもちましょう。自分らしい暮らし方をすることが、楽しく安全なマタニティライフの基本です。 心配なとき、不安なときは、主治医とよく相談しま しょう。
妊娠中は十分な睡眠と休息をとりましょう。無理を重ねると、からだに負担がかかるばかりではなく、 精神的にもつらくなってしまいます。早寝早起きが 理想ですが、つわりがひどいときや夜眠れないというときは、昼間でも横になって少しでも睡眠をとりましょう。仕事などの関係で夜が遅い人も、睡眠時間が不足しないよう注意が必要です。
妊娠中は新陳代謝がさかんになりますから、毎日入浴するかシャワーを浴び、洗髪もこまめにしたいものです。ただし熱すぎる湯や長湯は避けましょう。 また、おなかが大きくなると足下が見えにくくなるので、浴室などですべって転倒しないように気をつけましょう。
むし歯や歯周病など口腔の病気は、妊娠中に悪くなりやすいものです。
昔は「子どもをひとり産むと歯が1本なくなる」 といわれましたが、これも妊娠中、食事のとり方が不規則になったり、口の中に食べ物のかすが残りがちになるため、むし歯や歯周病になりやすいことをいいあらわしたものです。
こうした病気を防ぐには、まず毎食後に歯をみがくなど、口の中を清潔に保つことが大切です。また、妊娠中期ごろと、産後1か月以上たったころに、痛みがなくても歯の健康診査を受けましょう。なお歯科を受診するときは必ず妊娠していることを伝えま しょう。
歯は栄養をとるための第一関門。妊娠中の栄養摂取は、生まれてくる赤ちゃんの歯をじょうぶするためにも大切です。歯の健康には十分注意しましょう。
特にトラブルがなければ、ふだんの家事はいつも通りこなしましょう。近所での買い物などは適度の運動にもなるでしょう。しかし、疲れたり、からだがつらいときは無理をしないこと、また前かがみで浴槽を洗うなど、おなかを圧迫するような動作は避けることが大切です。夫も積極的に家事を分担しましょう。
妊娠初期と末期の旅行は避けます。妊娠4か月~ 7か月ごろ、医師から安静を指示されていなければ、 スケジュールに無理のない旅行は楽しめます。
スポーツは、運動不足を解消し、体調をととのえるためにも効果がありますが、無理は禁物です。妊娠中に始めるなら、妊婦体操やウォーキングがいいでしょう。マタニティスイミングなどのマタニティスポーツは、医師に相談し、許可をもらってから始めましょう。
こわがってむやみに避けることはありませんが、 妊娠初期や妊娠末期はひかえめにします。清潔にすることと、おなかを圧迫しないことも大切です。おなかの張りがあったら中止し、出血や休んでもおさまらない張りが起きたらすみやかに産婦人科を受診しましょう。
からだの疲れと姿勢は、密接なつながりがあります。妊娠中は体重が増えるだけでなく、おなかが大きく前にせり出して重心が変化してくるので、どうしても姿勢が悪くなりがちです。バランスの悪い姿勢は、おなかの負担になりますし、腰痛の原因にもなります。意識的に姿勢を正しく保ち、動作も慎重にしましょう。
立っているときは、あごを引き、肩の力を抜いて自然に胸を張ります。 背筋は伸ばし、おしりを持ち上げ、 両足を開くような姿勢にすると楽です。靴は低めで、底にすべり止めのあるものが安全です。
階段の昇り降りは重心がとりにくいので、手すりなどにつかまり、転ばないようゆっくりと。
重いものを持ち上げるときは、まずひざをつき、 腰を落とします。高いところのものをとったりするときは、転倒しないよう気をつけて。できるだけ家族に頼みましょう。
おなかが大きくなってからは、横になって休むときや眠るとき「シムズの体位」が楽。ひざの間にクッションをはさんでもよいでしょう。
妊娠中も、シートベルトを正しく着用することによって、交通事故に遭った際の被害から母体と胎児を守ることができます(シートベルトを着用することが健康保持上適当でない場合は着用しなくてもよいこととされていますので、医師に確認するようにしましょう)。なお、妊娠中にシートベルトを着用する場合には、事故などの際の胎児への影響を少なくするために、妊娠していないときとは異なるシートベルトの着用方法が必要です。